海上自衛隊 用語・あるある~艦艇乗組34年のヒロエレが感じた艦艇生活での日常~

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金曜日の昼食はカレー

 海上自衛隊に関してよく言われるのはやはり、これですかね。実際、毎週金曜日の昼食はカレーライスとなってます。この伝統(?)の起源で知られているのは『艦艇で長期間航海していると曜日の感覚が無くなるので、カレーを食べることにより「今日は金曜日か」と認識できるように』というのが一般的ですが、以前は土曜日の昼食に出されていたカレーが金曜日に変わったというのがホントのところみたいです。今では週休二日制で土曜日は休みですが、30数年より前は土曜日は半ドンとなっており、午後からスムーズに休めるよう昼食の調理を簡単に済ませる必要があったようです。
 曜日の変更があったとしてもその頃から毎週カレー食べてたんですね。

365日 ÷ 7日 ≒ 52日(金曜日)
52(金曜日)×34年 ≒ 1772(カレー)
自衛隊生活中、このくらい食べてたんですね。


あと〇カレー

 私が以前乗り組んでた艦艇では、1か月以上の長期航海するときなど、カレンダーの金曜日の欄にこの『あと〇カレー』という入港までのカウントダウンが記入されてました。カレーを食べる度に入港日が近づいてるということですね。 こうやって長い航海を凌いでました。


みそ汁の数

 今はあまり言われなくなってますが、私が艦艇乗組み始めた若い頃に、先輩が艦艇乗組み経験年数の違いを言う際によく『わしとお前はみそ汁の数が違うんで』と言われてたことを思い出します。艦艇での朝食は必ずご飯とみそ汁プラス副食(前日の夕食の余り、土曜日はカレーも)というのが定番でしたから。(昔は一見、ヤ〇ザ(?)と見間違えるような恐い先輩がいっぱいいました。)


艦(ふね)に帰る

  私が休みで家にいる時に、艦から緊急で呼び出しがあった際、『緊急出港じゃ、艦に帰らんといけん』なんて言ったことがあります。それに対し妻から一言『帰るって、あなたの家はここでしょ?』。 
 1年の内、出港が200日を超える艦艇に乗っていると、生活の中心が艦艇になってきて、ついつい『帰る』発言になってしまうと思われます。一種の職業病でしょうか?


時刻の言い方がヘン

 艦艇の中では時刻の言い方が普通とはちょっと違うんです。例えば午前8時を0800まるはちまるまる』または『まるやーまるまる』、午後2時は1400ひとよんまるまる』、午後11時は2330ふたさんさんまる』とか。一般の人との会話の中で使ってしまうと、「ん?」と思われるみたいです。


いろはにほへと

 『いろはにほへと』から始まる『いろは』歌を全文暗唱できる若い人はどれ位いるのでしょう?
海上自衛官にとってこの 『いろは』歌 は馴染みが深いんです。なぜならば、海上自衛官になるとまず船乗りとしての基礎を学ぶため教育隊に入隊となります(幹部候補生ならば幹部候補生学校)。
 ここで通信手段として『手旗信号』を覚えることになる(海自隊員の基礎的知識)のですが、「カタカナ」文字を手旗で形作って送る手旗信号の練習の際、「アイウエオ」順ではなく「イロハニホヘト」順で覚えるんです。私も初めて 「いろはにほへと」 をここで覚えました。一文字の重複もなく七五調で、ある程度意味通じる様につづられているのでちょっと感動したのを覚えています。
 若い人で、 『いろは』歌 を諳(そら)んじられる人がいたら海上自衛官かもしれません。


いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま 
けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす(ん)

イロハニホヘト チリヌルヲ ワカヨタレソ ツネナラム ウイノオクヤマケフコエテ アサキユメミシ ヱヒモセス(ン)

色は匂へど  散りぬるを  我が世誰ぞ  常ならむ  有為の奥山 
今日越えて  浅き夢見し  酔ひもせず(ん)



シーマンシップ

スマート?

 海上自衛隊のしつけ教育の中にはシーマンシップの涵養(かんよう)】というのがあります。『シーマンシップ』とは、船乗りとしての技能船乗りとしての資質・心がけ・マナーのことを言い、涵養(かんよう)とは『自然にしみこむように、養成すること。無理のないようだんだんに養い作ること。』という意味だそうで、艦艇勤務を通して徐々に身に付いていくということでしょうか。
  海上自衛隊には『スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り』という旧海軍からの伝統精神を表現する標語があり、それぞれの意味は下記の通りです。


1.「スマート」とは、敏捷である、機敏である、スピィーディーである、頭の回転が速い、身のこなし方が良い、洗練されている、颯爽としている、無駄が無い、形式にこだわらない、明朗である、ユーモアがあるなどの感覚をまとめて表現したものです。

2.「目先が利く」とは、先見の明がある、人より先のことを考えている、臨機応変で視野が広い、進歩的である、周囲に対する気配りに優れている、大勢が把握できる、危険予知能力があるということです。

3.「几帳面」とは、整理整頓がされている、責任観念が旺盛である、時間を守る、確実である、清潔である、他人に迷惑をかけない、物・心両面の用意が出来ているということです。

4.「負けじ魂」とは、苦しく困難な局面においても任務を投げ出すことなく、全力で最後まで努力しようとする気持ちを表現していると言えます。

(出典:海上自衛隊幹部候補生学校ホームページ



休暇は前期、整列は後列

 海上自衛隊の艦艇では、任務の合間や修理期間に休暇をまとめて取得します。常に艦艇には保安要員が残らなくてはいけないので当直勤務が一定の日にちをおいて回ってきます。間隔は4~8日と階級によって違いますが、長く休暇を取るためには誰かとお互いに当直を交代することにより休暇期間の前期か後期のどちらかに休暇をまとめるのです。そこで、『 休暇は前期 』がいいとなるわけです。いつ緊急の任務が入るかわからないので、先に休暇を取った方がいいということです。
 そう言えば、最近、新幹線の中で制服姿の自衛官ってあまり見かけないですよね。私の若いころは帰省や赴任する時は制服で移動だったんですが今は私服が普通になってるので。まだ海士という階級だったので冬制服のセーラー姿はちょっと恥ずかしかったのを覚えています。

 では『整列は後列』とは・・・?
 そう、後列がいいんです。
 何か作業をする際に集合の号令が掛けられ、みんな整列するんですが、作業に必要な人数を前列から指名されるので後列は指名を免れる可能性があるから。ってことです。ちょっと狡いですよね。

  『休暇は前期、整列は後列 』この言葉のごろがいいんでよく覚えてます。


口笛厳禁!

 艦艇に乗組んで間もない頃、先輩から『口笛を吹くと嵐が来るから口笛は吹くな』と教えられました。これに似た言い伝えで『夜に口笛を吹くと蛇が来る』というのを聞いたことがあるでしょう。これは子供の躾として夜に口笛を吹くのは近所迷惑になるから、蛇が来ると言って子供を怖がらせるためみたいです。
 『嵐が来る』というのも自衛官が口笛を吹くのはみっともないから、躾としてこう教えてたんじゃないかな。おかげで私は口笛が今も上手く吹けません


紙上自衛隊(かみじょうじえいたい)

 お国の組織はどうしてこんなに書類が多いのでしょう?海上自衛隊も例外ではなく、ホント書類、書類です。1年間に使うコピー用紙の量は半端じゃない!パソコンが普及しているとはいえ、まだまだデジタル化は遅れていると思います。紙上自衛隊というのは乗員の自虐ギャグの1つです


”そ-ふ”とオスタップ


  ”そうふ” (掃布)とは主に艦艇の甲板(かんぱん)を水拭き掃除する際に使います。海上自衛隊の艦艇では朝0700位から甲板掃除をするのが日課になってます。甲板を綺麗にしておくことは『艦の威容を保つ』という躾があるからです。昔は煙突からの煤(すす)で甲板がすぐに汚れ、甲板掃除は大切な日課でした。

 オスタップとは、 ”そうふ” を洗うために使われる”たらい”のことです。一説によると、”ウォッシュタブ”という英語がなまって”オスタップ”になったのではないかということです。


甲板流し

 航海を終え、港に入港する前には艦艇に付着した『塩分』真水で流す作業があります。船体が錆びるのを防ぐためで、入港後のペンキ作業の準備でもあります。朝入港の時はまだ暗いうちから流し始めるので、冬季はつらい作業になります。


煙缶(えんかん)

 ズバリ、煙草の吸い殻入れことです。今の艦艇は世間と同じように分煙が徹底されており、タバコ吸う人には肩身が狭くなっております。


牛の糞にも段々(うしのクソにもだんだん)

 上の階級の人から見ると、下の階級は皆同じようなものと考えがちなんですが、下の階級の人達の中でも、勤務年数や年齢などによりちゃんと序列があるのでそこを考えて指示を出してやる必要があることを言います。これ、自衛隊特有の言い回しと思っていたのですが、調べてみると、

これは『仁義なき戦い・完結遍』において、天政会の副会長である大友勝利(宍戸錠)が市岡組組長の市岡輝吉(松方弘樹)にいってたセリフらしいです。
  「牛の糞にも段々があるんで。おどれとわしが五寸かい」

 私が勤務していた呉市は映画『 仁義なき戦い 』の舞台として知っておられる方も多いと思います。そう言えば昔の先輩方はみんな 『 仁義なき戦い 』 が好きでよく見てたことを思い出しました。多分、そのセリフを使ってたんですね。知りませんでした。


前支え 用意(まえささえ よ~い)

 これは昔からある、教育隊などで行われる訓練という名の”しごき”の号令です。『腕立て用~意』もあります。教官が『止め』というまでこの状態を保持しなくてはなりません。今のスタンダード・プランクですね。体力が無いうちはキツいですけど、体幹が鍛えられていい訓練だと思います。
 現在は”しごき”とかは”いじめ”に通じるということで、教官も一緒に前支えするらしいです。


整列をかける

 この『 整列をかける 』は現在の海上自衛隊ではほぼ絶滅した風習とは思いますが、私の若い頃は盛んに行われていたことです。
 海士という階級は昔はほとんどが任期制隊員で、中には3任期、4任期と海士のまま勤務している古参海士がたくさんいました。(1任期目は3年、以降任期2年)10年以上勤務している(昇任試験に合格できない)年齢30歳を超える海士長もいたので、新任海士(18歳)から見れば恐い存在でした。
 これらの古参海士長先任兵長)が若い海士に説教をするための、この『 整列をかける 』なのです。勤務態度の悪い者、先輩に挨拶しない者など、 古参海士長 に目をつけられた者には激しい体罰的な説教もあったと思います。前項の前支えもありましたし、整列の際には直立不動で長時間立たされたものでした。今はありませんけど。こういう風習はどうなんでしょう?賛否両論あるとは思いますが、昔はあったことは事実です。


5分前の精神

 海上自衛隊では予定された作業、訓練の5分前には『○○〇始め(開始)、5分前』という号令をかけます。この号令が入る前には全員が準備を整え、その配置について発動を待っている状態を求められます。「5分前の精神」は、厳格な時間的観念を植え付け、常に一歩先のことを考え、それに対する時間的、精神的余裕を持ち、事に臨むことを目的としています。


よーそろー

 ヨーソローは、幕末海軍からの操艦号令の名残であり、「宜候」と書き、「宜しく候(よろしくそうろう)」から「よーそろー」と変化したとされている。
 海上自衛隊での使い方は、操艦者(艦長、航海長、当直士官など)が艦の進路変更をする際、まず、舵を動かす号令を操舵員に下令します。右に舵をとる場合は面舵(おもーかーじ)、左に舵をとる場合は『取り舵(とーりかーじ)』。下記に一連の流れを書いときます。


(例)現在、進路000度で航行中、090度に進路を変更する場合。


(当直士官)『おもーかーじ』

(操舵員)  『おもーかーじ』 (復唱)

       舵輪を10度右に回し、舵角指示器が10度になったら、

(操舵員)  『おもかじ 10度』

( 当直士官 )『090度までまわる』

(操舵員)  『090度までまわる』 (復唱)

       010度、020度、・・・・と進路を逐次報告する。

( 当直士官 ) 艦の回頭状態を見極め、『もどーせー』

(操舵員)  『もどーせー』 (復唱)

       舵輪を0度に回し、 舵角指示器が0度になったら、

(操舵員) 『かじ、ちゅうおう』

( 当直士官 )『とりかじに あて』(船は回頭し始めると、舵を戻しても惰性で回ってしまう。)

(操舵員)  『 とりかじに あて 』 (復唱)

       舵輪を7度左に回し、 舵角指示器が7度になったら、

(操舵員)  『とりかじ 7度』 (これで船の振れ回りが止まる)

( 当直士官 )『090度 よーそろー』   ※ 090度 よろしく

(操舵員)  『 090度 よーそろー 』 (復唱)

       舵輪をこまかく操作し、 進路を090度に保持できたら、

(操舵員)  『 よーそろー 090度  』   ※ 090度 よろしいでしょうか?

( 当直士官 )よーそろー』         ※ 了解、よろしい



   『面舵』:「卯舵」(うかじ)→うむかじ→おもかじ、と訛ったものが由来
   『取舵』:「酉舵」に由来


まとめ


 昔の記憶を手繰りつつ書き連ねてきましたが、まだまだあると思いますので、思い出したら逐次更新していきたいと思います。

 これはどんな意味なの?という疑問があれば、問い合わせに連絡ください。できるだけお答えしたいと思います。閲覧ありがとうございました。

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